<谷野頭取包囲網(30)>
主人公の堀部の目を通して、(1)第五生命の山上正代が如何に維新銀行内で強大な影響力を持っていたか。(2)沢谷専務が山上の保険勧誘にどれだけ協力したか。(3)吉沢常務が如何に杜撰な労務管理をしていたか。(4)栗野会長の横柄な態度によって常盤支店の移転計画が一時白紙に戻ったこと。など守旧派のメンバー達について縷々述べて来た。
これらのことを背景として、いよいよ「谷野頭取罷免」が本番を迎えることになる。
谷野頭取をトップとする維新銀行は、業績の急回復とは裏腹に、2003年8月下旬から9月初旬にかけて発生した2件の不祥事件によって、行内は綱紀粛正の暗いムードに包まれて越年することになった。しかし新年を迎えても金融庁の業務改善命令が解かれる兆しは見えなかった。
前日の曇り空から朝方には小雪が舞う今冬一の寒さとなった2004年2月6日(金)、海峡市の維新銀行本店で、午前9時から定例の経営会議、午後1時から取締役会議が開催された。取締役会議終了後、守旧派のメンバーが谷本相談役の部屋に集合することになった。栗野会長は相変わらず病気療養中で欠席し、出席したのは沢谷専務、吉沢常務、北野常務、川中常務、松木取締役、大島取締役の6名で、福岡支店長の原口取締役は地銀協の役員研修に参加しており不在であった。
昨年発生した不祥事件の影響を受け、谷野頭取罷免の「TK計画」は一時棚上げを余儀なくされていたが、「TK計画」を実際に実行する時期を迎えていた。それに拍車をかけたのは栗野会長から谷本相談役への一本の電話であった。
谷本は、
「今月初め、谷野頭取が見舞いと称して栗野会長の病室に訪ねて来たそうだ。話の中で、今年任期を迎える役員改選が話題となり、改選の谷野、北野、川中、梅原、古谷、大島、木下、小林の7名のうち、北野常務、川中常務の2名を退任させ、北野常務を太平洋産業の常勤監査役に、川中常務を関連会社の維新保険サービスの社長にと、具体的に転出先の名を挙げて打診したそうだ。栗野君は返事を保留したそうだが、谷野君はまだ先の話であり一応頭に入れておいてほしいと言って帰ったらしい。このままでは押し切られるので、谷野君の罷免計画を早く実行に移して欲しいと、栗野君が慌てて連絡して来たんだ」
と話した。
張りつめた空気が漂うなかで6名の顔色が変わったが、特に退任の名が上がった北野と川中の顔色は蒼白になっていった。
谷本の話を聞いて専務の沢谷が、
「谷本相談役、お話は良くわかりました。これから『TK計画』を具体的に進めたいと思います。ここに出席している皆さんもそれでいいですね」
と話すと、全員が大きく頷き、「谷野頭取罷免」のクーデター計画を実行に移すことが決まった。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
▼関連リンク
・「維新銀行 第二部 払暁」~第1章 谷野頭取交代劇への序曲(1)
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